マルハバン!
先日、こんなことがありました。
我が家で働くフィリピン人メイドが仕事中にメッセージや電話に忙しそうにしていたので、何事かと聞くと彼女は突然泣き出してしまいました。
そして痛々しい写真を見せてきました。
聞くと、彼女の10歳の次男坊が野良犬に噛まれて大けがをしたので気が気でいられないと言うのです。
彼女は突然わーわーと泣き出したので事情を詳しく聞いてみました。
外で友だちとバスケをして遊んでたときにボールを拾いに行ったその男の子は、狂った野良犬に膝を噛まれたそうです。
その野良犬は、その後死にました。
病院で5針縫って注射を受けたけれど、野良犬が死んだことから病院側は狂犬病を疑って、7回注射を受けないといけないとメイドの母親に言いました。
犬が死ななければ2回の注射で十分だけれど、犬が死んだので7回注射を打たないといけないと。
それで、その注射が1回18KD(日本円で9,000円)近くするもので、シングルマザーで二人の子持ちの彼女はお金が払えないと途方に暮れていたのです。
彼女の息子は頭が痛いとか首が痛いと言って泣き続け、学校にも行けていないと言っていました。
メイドから話を聞くとフィリピンの事情には色々と驚かされます。
まず、狂犬病の疑いのある野良犬がそこら辺にいること。
そして、病院にかかってもお金がないと十分な医療が受けられないこと。
両親が不在の場合は、治療費の7割程度を負担しないといけないこと。
そして最大の驚きは、緊急用のお金を貯金していないこと。
彼女はシングルマザーで実家の母親に父親の異なる二人の息子の面倒を見てもらっています。
実家の母親は働いていないので、実質メイドの給料で3人を養っている状況です。
彼女は、我が家に来て以来給料の前借りをするのが常で、2~3か月先の給料にも手を付けています。
それも、長男を私立校に入れて、家を改装しているというからこれまた不思議でした。
とにもかくにも、彼女はお金がなくて子どもに残り5回分の注射を工面するのに必死で、子どものことが心配でたまらないと訴えます。
ビートルマニアも人の母なので、彼女の気持ちは痛いほどわかります。
だけれど、彼女の貧しさを理解するのは容易ではありません。
貧しいのは分かるけど、その実態がどうなのかが日本で何不自由なく生まれ育ったわたしの理解は及ばないのかも知れません。
毎日の食事を人に助けてもらうとか、病院代が払えないとか、基本的人権を脅かされるほどの生活を目の当たりにしたことはこれまでありませんでした。
彼女には、「クウェートでの給料の散財をやめて給料の10%を少なくとも毎月貯金したら?
もしも何かあったときどうするの?」
と前々から言っていますが、彼女はそれはできないと言います。
休日の外出時に彼女が散財しているのを知っているので色々と不思議に思いますが、人生には娯楽が必要なのでそれも必要経費だといえばそうかも知れません。
そんなこと今言っても、彼女にはお金がありません。
子どもを助けるには、誰かが病院代を出すしかありません。
わたしは取り敢えず、明日の注射代を1万円ほど彼女にその場で渡しました。
そして、「このお金はアッラーからだよ。」と伝えました。
彼女はまた泣き始め、彼女や家族の貧しさを想像すると心が痛みました。
そしてメイドに「取り合えず明日の分はこれで注射して、残りの分は他に誰か協力してくれる人がいるか聞いてみるから」と伝えました。
ビートルマニアは知っています。
クウェート人の義理の家族は、こういう出稼ぎ労働者や家族を見捨てません。
誰かが困っていたら、みんなでお金を出し合い助け合います。
イスラム教徒はこれを「サダカ」と呼び、日常的に行っています。これがアッラーからの教えなのです。
義理の家族が、我が家で働くメイドやドライバーだけでなく、親せきの家で働くメイドや、アラブ人労働者の祖国にいる家族にも送金しているのを過去に何度も見てきました。
お金だけでなく、物資を何箱もレバノンやシリア、エジプトの貧しい人々に年に何度もトラック輸送し、何か欲しいものはないかと聞いています。
そんなムスリムの姿にわたしは何度も感銘を受けました。
メイドの宗教がイスラムじゃないことは関係ありません。
「困っている人がいたらできる範囲で助けるのが彼らなのだ」とわたしは義理の家族との生活で学びました。
その夜、帰宅した夫に事情を話すと夫は姑と叔母に話すと言ってくれました。
そして翌朝、何も言わずに頼んだ分のお金をわたしに渡してくれました。
夫と姑、姑の妹からお金を集められれば彼女の10歳の子どもは病院で狂犬病の注射が打てます。
これがどれだけの意味を持つのかは、メイドは十分理解しています。
豊かなクウェートの生活で垣間見える世界の貧しい国の生活。
貧者を見捨てないイスラム教徒の精神。
クウェート生活は日々色々なことをビートルマニアに教えてくれるのでした。
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